静岡県司法書士会「消費者契約法改正試案」

2014/04/04

序 本試案の作成に当たって

消費者契約法が施行されてから10年余りが経過した。この間、消費者契約法は、個々の消費者契約に関する紛争に対してある程度の影響を及ぼしてきたということができる。例えば、中古車売買における走行距離の不実告知や販売業者の不退去によるクレジット契約の取消しは、消費者契約法が制定されたことによって消費者の事後救済が容易になった典型例といえよう。また、個々の契約関係に影響を及ぼすだけに止まらず、社会的影響をもたらしたということのできる事象も散見される。例えば、大学の学納金問題や敷金の問題などは、消費者契約法が制定されなければ、これほどの社会的な問題とはならなかったであろう。このように、消費者契約法は、個々の契約関係だけでなく、社会に対しても着実に影響を及ぼしてきたということができる。
一方、消費者契約法には、その立法趣旨である事後救済の容易化や法的安定性の向上といった面で、まだまだ不十分あるいは未成熟な点があることも否めない。例えば、4条4項の重要事項の範囲について限定的な解釈が示されていること、9条1号の平均的損害の認定が事案や裁判官ごとに異なること、10条の解釈(確認規定か創設規定か)などは、消費者契約法が不十分あるいは未成熟であることの現れであるといえよう。
不十分あるいは未成熟な点があるということは、消費者契約法が発展途上にあると言い換えることができる。当会は、消費者契約法を「発展途上にある」と捉え、特に同法の実体法部分(2条乃至10条)について、消費者契約に関する紛争の実態に照らして不十分あるいは未成熟な点を補完するべく、本試案を作成した。当会は、本試案の公表を通じて、消費者契約法改正の機運が高まり、活発な議論が展開されることを切に願い、期待している。なお、本試案を読み解く際の手がかりとなるよう、本試案を作成するに当たって当会が意識したことや参考にしたものを紹介しておく。

1.本試案は現行法にその基礎を置くことにした。その結果、条文の配置も現行法に合わせたものとなっている。
2.条文を作成するに当たり、実体法の適用範囲の拡大を図りつつ、条文のわかりやすさと具体性を可能な限り希求した。ただし、わかりやすさと具体性は時に相克することすらあり、そのような場合にはジレンマに陥りつつ、条文ごとにそのいずれかに比重を置いて起案した。
3.本試案では、近年の非対面型取引や多様な決済手段の著しい発達に対応するために、私法の基本原則(意思主義や過失責任など)との整合性に若干の不安を覚えるものの、ずいぶんと思い切った条文をいくつか設けてみた。そのような条文案について議論の余地があろう。しかし、議論する際に忘れてならないことは、既存の法律またはその指導理念をもって対応することのできない経済活動が日々展開・発展しているという観点を持つことである。言い換えれば、既存の法律やその指導理念に囚われていてはもはや合理的な解決を現実に導き出すことが難しい、そのような経済活動が厳然と存在することに目を背けてはならないということである。
4.本試案の作成に当たり参考としたものは次のとおりである。
a.消費者庁『平成23年度消費者契約法(実体法部分)の運用状況に関する調査結果報告』平成24年6月
b.日本弁護士連合会『消費者契約法日弁連改正試案』平成24年2月16日
c.近畿弁護士会連合会消費者保護委員会編『消費者法ニュース別冊消費者取引法試案―統一消費者法典の実現をめざして―』消費者法ニュース
d.民法(債権法)改正検討委員会編『詳解債権法改正の基本方針Ⅰ~Ⅴ』商事法務

意見の趣旨及び理由

第1 定義
【意見の趣旨】
法2条1項の括弧書きを削除し、但書きとして「事業として契約の当事者となる場合におけるものを除く」と加えるべきである。また、法2条2項の「又は事業のために」を削除すべきである。
【意見の理由】
現行法では「事業として又は事業のために契約の当事者となる」個人は事業者とされ、法の保護の対象外となっている(【表1】実線部分)。確かに、個人であっても事業遂行そのものについては取引について有する情報、交渉力等は事業者と対等であると考えられることから、「事業として」契約の当事者となる個人については「消費者」の定義からは外れても妥当であると考える。
しかし、「事業のために」契約の当事者となる場合、すなわち、当該個人が事業そのものとはいえない契約を締結するときは、当該個人が有する知識や情報量は一般の消費者と変わらないことが少なくない。そのため、現行法の規定を形式的に適用すると、実際には法の保護が受けられるべき者まで適用対象外となってしまう不都合が生じる。
そこで本意見書では、「事業のために」の要件を削除し、個人であっても自己の事業そのものとはいえない契約を締結する際には、法の適用対象とすることとした。(【表1】点線部分)。
また、現行法において消費者として契約したことの立証責任は法の適用を主張する消費者に課されているが、同一の契約において個人使用目的と事業目的が混在する場合、「事業として」締結された契約であるか否かの立証は困難を伴うため、法の目的たる消費者保護に反する。そこで、法2条1項括弧書きを但書きとすることにより、「事業として」締結された契約であるか否かの立証責任を法の不適用を主張する事業者に転換すべきである。

なお、「事業のために」契約の当事者となる場合を一律に法の適用対象とするのではなく、一定の事業規模や資本力等を備えている個人が「事業のために」契約の当事者となる場合は法の適用対象外とすべきとする意見、あるいは組織としての体をなしていない法人については個人と同様に法の適用対象とする余地を残すべきとする意見も少なくない(【表2】)。

現実の被害事例を俯瞰すればこのような考え方にも首肯できるが、一定の事業規模や資本力等を有する個人あるいは組織としての体をなさない法人の要件の成文化には多大な困難を伴うことが推測できるし、具体的要件を定めることにより、かえって柔軟な判断や解決を阻害するおそれもあるため、本意見書では採用しない。

第2 事業者の義務
【意見の趣旨】
法3条の表題を「(事業者の努力及び義務並びに消費者の努力)」に改めて法3条1項を下記のとおり2項及び3項に分けるほか、下記のとおり1項、4項、5行及び7項を挿入し、現行の2項を6項に繰り下げるべきである。

第3条 事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、当該消費者にとって明確かつ当該消費者が理解できる平易な表現を用いなければならない。
2 事業者は、消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供するよう努めなければならない。
3 前項の必要な情報が重要事項に関するものであるときは、事業者は消費者に対し、当該情報を提供しなければならない。
4 事業者は、消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者を威迫しまたは困惑させてはならない。
5 事業者は、消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の知識、経験及び財産の状況等に配慮するよう努めなければならない。
7 事業者が第1項、第3項及び4項に違反したときは、消費者は、これによって生じた損害の賠償を請求できる。

【意見の理由】
1.法3条の位置づけ
法3条1項乃至5項を事業者の負うべき民事義務あるいは努力義務を規定する条文と位置づけ、現行法では事業者の努力義務に止まる契約条項の平易・明確化義務を民事義務とするほか、情報提供義務については事業者の提供すべき情報が法4条4項の重要事項に該当する場合は民事義務とし、それ以外については現行法どおり努力義務に止める趣旨である。
また、事業者の負うべき新たな義務として、勧誘時における威迫・困惑行為の禁止義務、適合性の原則(但し、努力義務に止める)を規定するものである。
現行の法3条と法4条の関係は、法3条で事業者の負うべき一般的な義務を規定し、法4条は、法3条違反行為のうち特に消費者を保護する必要性が高いと考えられるいくつかの具体的類型について消費者に取消権を認めた規定であると説明されることもあるが、法3条が単なる努力義務規定であることから、法4条違反に該当しないような事業者の情報提供義務違反があった場合、これが債務不履行責任ないしは不法行為責任を構成し事業者に対する損害賠償請求により消費者を救済することができるか否かについて、いくつかの裁判例がこれを肯定しているものの、立法担当者の見解としては否定的であった。
そこで本意見は、法3条により事業者が民事義務を負う場合には、これに違反した事業者に対し新たに規定する7項に基づき損害賠償請求が可能となることを求める趣旨である。無論、事業者による当該違法行為によって消費者が誤認して契約を締結した場合には、法4条により契約取消しも可能となるのである。

2.契約条項の平易・明確化義務
事業者が消費者契約の条項を定めるとき、当該事業者や専門家にしか理解できない専門用語を駆使してもあまり意味はない。むしろ、当該契約の相手方である消費者にとって分かりやすい言葉や表現を用いるべきであり、この考え方は、消費者契約法の理念の下においては、至極当然のことである。しかし、現実には、先物取引や個人年金取引はもちろん、身近な契約(例えば預金取引やクレジット取引)であっても契約条項に専門用語が使用されており、消費者の契約トラブルの一因となっていることも指摘されている。
そこで、契約条項の平易・明確化について、現行法3条1項の努力義務を一歩進め、事業者に対する民事義務として定めるべきである。また、一般抽象的な消費者ではなく、事業者が契約を締結しようとする相手方の消費者(個別具体的な消費者)にとって明確かつ理解できるようにすべきでもある

3.情報提供義務
インターネットの急速な普及に伴い高度化・専門化が著しく進展する経済・生活環境において、事業者に比して情報の質や量、交渉力等に格差のある消費者が平穏に消費生活を営むためには、格差を埋めるための事業者からの十分な情報提供が何よりも必要であると考えられる。事業者と消費者との間の格差が是正されなければ「消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展」(法1条)を望むことなどできないからである。
事業者の情報提供義務については、民法上の信義則理論を根拠とし、不動産取引や先物取引、変額保険契約等の一定の契約類型の下で判例法理により肯定されてきた。この点、法3条1項が事業者に対し、契約類型を限定せずにあらゆる消費者契約を対象として情報提供義務を課した点は評価できるが、これが努力義務に止まる点については批判も少なくない。
もっとも、事業者に対しあらゆる点に関して情報提供義務を課すことになると、事業者の経済活動を必要以上に委縮させる懸念が生じるだけでなく、情報提供に要するコストや時間が消費者に転嫁されることによってかえって消費者に不利益をもたらす事態に陥りかねない。そこで、消費者の契約締結に向けた意思形成過程に重大な影響を与えることとなる法4条4項の重要事項に関しては民事義務とし、それ以外については現行どおり努力義務に止めるのが妥当であると思料する。

4.勧誘時における威迫・困惑行為の禁止義務
法4条3項は、事業者による不退去または退去妨害行為によって消費者が困惑し、これによって消費者契約が締結された場合に消費者に取消権を認めているが、同項の定める困惑行為は限定列挙であることから、同項の取消権が適用される場面は非常に限定されている。
事業者による勧誘の態様は千差万別であり、悪質な事業者であればあるほど法の隙間を巧みに突くことにより消費者の被害回復を困難とするケースが顕著となる。そこで本意見では、意見第8で困惑行為取消権を拡大する改正を求めているが、一方で、取消権を認める法4条3項をあまりに拡大することは事業者の経済活動を必要以上に委縮することにもなるし、取消しのできる要件を抽象化することは予見可能性を欠く結果となり妥当ではない。
そこで、事業者の負うべき義務として勧誘時における威迫・困惑行為の禁止義務を法3条に加え、法4条3項の取消権が適用されない場合でも、消費者からの事業者に対する損害賠償請求によって被害回復を図ることができる旨を明らかにすべきである。
なお、事業者の勧誘規制に関しては、特定商取引法の訪問購入規制に導入された「不招請勧誘の禁止」を消費者契約法にも導入すべきであるとの意見も少なくないが、本法が消費者契約における民事一般法として労働契約を除くあらゆる消費者契約を適用対象としている点、特定商取引法の改正により訪問販売及び電話勧誘販売の指定商品・指定役務制が廃止された点などに鑑みれば、消費者を訪問したり消費者に電話をかけたりしてする勧誘を民事一般法である本法で網羅的に規制するのではなく、取締法規の性格を有する特定商取引法に委ねるのが妥当であると思料するものである。

5.適合性の原則
平成15年5月に第18次国民生活審議会消費者政策部会において取りまとめられた「21世紀型消費者政策の在り方について」において「事業者は、消費者の知識、経験、理解力、資力等の特性を考慮した勧誘・販売を行わなければならないとする考え方は、消費者契約に広く適用されるべき原則であり、その旨を法的に明確化する必要がある」と適合性の原則の提言がなされ、その後に改正された消費者基本法では「消費者との取引に際して、消費者の知識、経験及び財産の状況等に配慮すること」が事業者の責務として明確に規定された(同5条1項3号)。
消費者基本法が消費者政策の基本事項等を定めた法律であることから、同法に明記された適合性の原則はその後も金融商品取引法、特定商取引法施行規則などに導入され、その実効性の確保が図られているのである。
このように、消費者保護法の性格を有する法律において、適合性の原則が事業者の消費者に対する当然の責務として位置づけられている状況に鑑みれば、事業者と消費者の格差を前提とし、当該格差から生じる消費者被害の未然防止や被害回復を目的とした消費者契約における民事一般法である本法においても、適合性の原則を事業者の義務として明記すべきである。
もっとも、民事基本法としての本法の性格に鑑み、直ちに民事義務とすることは妥当でないとの指摘も少なくないため、本意見では、まずは適合性の原則を条文上に明記することを重視すべきとの考えから事業者の努力義務として規定し、あわせて数年後の状況を考慮して民事義務を課すことが妥当か否かを改めて判断すべきであると考える。

第3 勧誘
【意見の趣旨】
法4条1項乃至3項の「消費者契約の締結について勧誘をするに際し、」を削除すべきである。
【意見の理由】
立法担当者によれば、「勧誘」とは(ア)特定の消費者の(イ)意思形成に対する働きかけを意味すると指摘されるが、学説や裁判例では、不特定多数の者に対する広告、チラシの配布、商品の陳列、パンフレットや説明書の交付であっても、それによって当該消費者の意思形成に対して実際に働きかけがあったと評価される場合、すなわち、上記(ア)の要件に該当しなくとも上記(イ)の要件を満たしていると評価できる場合には事業者による当該行為を「勧誘」にあたると評価し、消費者に取消権を認めている(不実告知に関して東京地判平成22年2月18日ほか、不利益事実の不告知に関して東京地判平成18年8月30日ほか)。
法4条1項及び2項により消費者に取消権が認められるためには、「勧誘」の態様にかかわらず、事業者による不実告知あるいは不利益事実の不告知によって消費者が誤認に陥ったことが必要となるのであり、消費者が誤認に陥ったということは、消費者の受けた「勧誘」が仮に上記(ア)の要件を満たしていない場合であっても、消費者の契約締結の意思形成に実際に働きかけがあったものと考えるのが妥当とするのが、これらの学説や裁判例の考え方であろう。
そうすると、消費者に取消権を認めるべきか否かの判断に際して上記(ア)の要件はさほど重要な要素ではなく、事業者の行為と消費者の誤認に因果関係がありさえすれば、すなわち上記(イ)の要件が満たされさえすれば、当該消費者に取消権が認められることが法の趣旨に適うものと考えられることとなるのであり、意見の趣旨に記載のとおりの改正がなされるべきである。

第4 不実告知
【意見の趣旨】
法4条1項1号の「告げる」を「表示する」と改めるべきである。
【意見の理由】
本意見は、単に現行の不実告知取消権を不実表示取消権に拡大するだけの改正を求めるのではなく、現行の不実告知取消権を不実表示取消権に拡大したうえ、さらに現行の不利益事実不告知による取消権によって取消しの対象となる行為の一部について、法4条2項に掲げられた事業者の故意の要件を削除し、両者を一体として「事実と異なることの表示」と評価しようとするものである。
まず、現行の不実告知取消権について検討すると、「告げること」を「表示すること」と改めることについては、法4条1項1号の「告知」は必ずしも口頭によることを要さず、消費者が実際に事業者の行為によって認識し得る態様の方法であればよいとするのが立法担当者の見解であることから、実務に与える影響は少なく、むしろ事業者の行為と消費者の誤認に因果関係が認められる以上、意見第3と同趣旨により当該消費者を積極的に保護すべきであると考える。 次に、現行の不利益事実の不告知による取消権について検討する。
不利益事実の不告知により取消しが認められるケースの中には、事業者が告知された利益事実と相容れない不利益事実の存在を説明していないケースや、告知された利益事実に不利益事実が存在しないことが含意されているようなケースも存在するが、このようなケースでは、事業者から利益事実の告知を受けた消費者は、利益事実の告知を受けたことによって当然に不利益事実は存在しないものと誤認するのが通常である(以下、このようなケースを「不実表示型不利益事実の不告知」という)。そうすると、消費者の誤認はむしろ事業者による利益告知との間で因果関係が強く、消費者の誤認とより因果関係の弱い不利益事実の不告知に対する事業者の故意の有無によって取消しの可否が左右されるのは、妥当とは言えない。
もっとも、不利益事実の存在を本当に認識していなかった事業者まで消費者による取消しを甘受しなければならないのかとの疑問も生じるが、①そもそも不実表示型不利益事実の不告知では、利益告知の具体性が高いことから不利益事実との関連性も強いという特徴があり、その結果、消費者は事業者から不利益事実について説明を受けるまでもなく、利益告知を受けたことによって当然にこれに関連する不利益事実は存在しないものと誤認するのが通常であること、②このように考えると不実表示型不利益事実の不告知では、利益告知をしたことによって不利益事実は存在しないと誤認させた事業者の行為が、現行の不実告知と同視できること、③現行の不実告知では、事業者の主観的要件を問うことなく消費者に取消権が認められていること等を考慮すれば、事業者に過大な不利益をもたらすほどの改正であるとは考えられず、むしろ法全体としての整合性が保たれるものと思料するものである。
なお、不実表示型不利益事実の不告知に該当しない不利益事実の不告知による取消権については、意見第6にて言及する。

第5 断定的判断の提供
【意見の趣旨】
法4条1項2号を「その価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が」を削除すべきである。
【意見の理由】
現行の法4条1項2号では、条文の文理解釈から「将来における変動が不確実な事項」は金銭に関するものに限定されるとするのが通説的な見解である(金銭に限定されないと解釈した裁判例として、大阪高判平成16年7月30日)。
このため、本号の取消権が認められた事案は、投資取引に関するものやいわゆるパチンコ攻略法被害に関するものなど、特定の分野の取引被害に集中する傾向にある。
しかし、法4条1項2号の趣旨は、消費者に比べて情報の質及び量並びに交渉力に勝る事業者が、その立場を利用して将来の不確実な事項をあたかも確実なものであるように消費者に説明し、これにより契約締結してしまった消費者に取消権を認めるものである。
したがって、例えば「必ずやせられる」と説明されたエステティックサロン受診契約、「学力が必ずアップする」と説明された学習塾受講契約など、金銭以外に関するもので、かつ必ずしも変動するものではない事項について断定的判断の提供を受けた消費者であっても、契約の拘束力から解放されるべきであることに何ら変わりはない。
よって、意見の趣旨に記載のとおり「将来における不確実な事項につき断定的判断を提供すること」と改正すべきである。

第6 不利益事実の不告知
【意見の趣旨】
法4条2項の「ある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該」及び「(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)」をいずれも削除すべきである。
【意見の理由】
意見第4で指摘した不実表示型不利益事実の不告知以外のケースでは、利益告知の具体性が低いために不利益事実との関連性が弱いという特徴がある(以下、「不告知型不利益事実の不告知」という)。このため、不実表示型不利益事実の不告知の場合には消費者の誤認が事業者による利益告知との間でより強い因果関係を有していたのに対し、不告知型不利益事実の不告知のケースでは、消費者の誤認は事業者による不利益事実の不告知に起因するのが通常となる。 そうすると、不実表示型不利益事実の不告知が現行の不実告知と同視できることから故意の要件を削除するのが妥当であったのに対し、不告知型不利益事実の不告知では、事業者が不利益事実の存在を認識していながらあえて(故意に)消費者に告知しなかったことが重視されるべきであり、この点で法4条2項に事業者の主観的要件を残すことは妥当である。
一方、利益告知の具体性が低く不利益事実との関連性が弱い不告知型不利益事実の不告知では、現行法4条2項で課せられている①先行行為としての利益告知の存在、②利益告知の対象となる重要事項と不利益事実の不告知の対象となる重要事項との関連性の各要件に該当するか否かの事実認定がしばしば問題となり、同項が「実務で利用しづらい」と指摘される大きな要因となっている。
ところで、法4条2項が先行行為の存在を要件とした事情は、以下のとおりであると推測できる。すなわち、法3条1項の事業者による情報提供義務を努力義務に止めたことから(この点については、意見第2-2及び3参照)、告知しないという不作為が直ちに民事上の違法行為に該当するわけではない。にもかかわらず事業者をして取消しを甘受せしめるためには、告知しないという不作為が何らかの違法状態を構成する必要があり、その要件として上記①及び②が明文化されるに至ったのだろう。
しかし、消費者契約法の一般法である民法では、法律上(あるいは慣習や条理により)告知義務があるのに告知しないいわゆる沈黙の詐欺においても取消しが認められている(最判昭和44年2月13日民集23巻2号291頁ほか)状況に鑑みれば、事業者と消費者の能力格差に起因する取引被害から消費者を保護することを目的とした民法の特別法たる消費者契約法において、沈黙の詐欺に相当するような先行行為の存在を必要としない取消権を消費者に認めるべきであることは、論の破綻を招くものではないものと思料する。
なお、意見第2-2及び3では、事業者の情報提供義務を努力義務と民事義務とに分けているが、事業者が努力義務しか負わない場面(重要事項に関するもの以外の情報提供の場面)では現行法の取り扱いと何ら変更は生じず、事業者が民事義務を負う場面(重要事項に関する情報提供の場面)では、事業者の情報提供義務違反に故意が認められる場合は本条により消費者は契約を取り消すことができ、過失に止まる場合には損害賠償請求による被害回復を図る余地があるものと整理することができるのである。
よって、先行行為である利益告知に関する要件を削除し、現行の不利益事実不告知による取消権を故意の事実不告知による取消権と位置づけるため、意見の趣旨に記載のとおりの改正を求める。

第7 重要事項
【意見の趣旨】
法4条4項の冒頭に「第3条第3項並びに」を加え、同項柱書のうち「消費者契約に係る次に掲げる事項であって」並びに同項1号及び2号を削除すべきである。
【意見の理由】
法は、重要事項について事業者から不実告知や不利益事実の不告知を受けた消費者に対し当該消費者契約の取消権を与えているが、被害回復の場面においては、事業者から不実告知や不利益事実の不告知を受けたにもかかわらず重要事項に該当しないために取消権が認められないケースが、しばしば問題となる。
例えば、「一定の仕事を供給するので、指定のパソコンを購入されたい」というケースに代表される内職商法では、消費者は「一定の仕事の供給」について事業者から不実告知を受けているが、現行法の解釈では「動機」にすぎず法4条4項1号または2号には該当しないから、消費者に取消権は認められないことになる。
また、「水道局の者だ」と名乗る者の訪問を受け水道水の点検を受けたところ「健康を害するおそれがあるから推奨する浄水器を購入するとよい」と勧誘されるケースに代表される点検商法では、消費者は「浄水器」という「当該消費者契約の目的となるもの」以外のものについて事業者から不実告知を受けているので、同じく現行法の解釈では、消費者に取消権は認められないことになる。
しかし、法4条1項1号及び2項は、事業者から違法性の強い勧誘行為を受けた消費者を保護することを目的とする規定であるから、事業者から消費者に提供された情報の種類によって保護される消費者と保護されない消費者とを区別する合理的理由は見出せない。したがって「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容」(法4条4項1号)、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの対価その他取引条件」(同項2号)の各制限を加えることは妥当ではない。
もっとも、消費者契約の法的安定性を図る観点から、重要事項の該当性に一定程度の予見可能性が必要であるが、この点は、意見の趣旨に記載のとおり「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」という要件を残すことで十分であるものと考える。
したがって、同項を「第3条第2項並びに第1項第1号及び第2項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項であって消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう」と改めるべきである。
なお、意見の趣旨に「第3条第3項」を加えた点については、意見第2-3の指摘によるものである。

第8 再勧誘の禁止
【意見の趣旨】
法4条3項3号に「当該事業者に対し、当該消費者が、当該消費者契約を締結しない旨の意思表示をしたにもかかわらず、当該消費者契約についての勧誘行為を継続したこと」を加えるべきである。
【意見の理由】
困惑類型の取消事由に、いわゆる「再勧誘の禁止」を加える改正を求めるものである。
再勧誘の禁止とは、消費者が事業者に対して、消費者契約を締結しない旨の意思表示をした場合、事業者は当該契約の勧誘をしてはならない規定である。 特定商取引法3条の2については、訪問販売に関して販売業者に対し再勧誘の禁止の規定が定められており、市区町村においては、条例において「再勧誘の禁止」を定めているところもある。
このように再勧誘の禁止の規定が制定される背景には、事業者の消費者契約の勧誘に際し、消費者が契約締結を何度断っても悪質な事業者が執拗な勧誘を繰り返すことにより、消費者が困惑して意思に反して契約を締結してしまうという被害事例が非常に多いことによる。
現行の消費者契約法では、事業者の消費者契約の勧誘に際して「事業者の不退去」「事業者による消費者への退去妨害」により消費者が困惑して契約を締結してしまった場合に契約の取消しを認めているが、これらの規定に加え「再勧誘の禁止」により消費者が困惑して契約を締結してしまった場合を困惑型の取消事由に加えることにより、消費者保護を図るべきである。

第9 第三者が誤認惹起・困惑行為を行った場合
【意見の趣旨】
法5条の表題を「(第三者の関与及び代理人)」に、法5条1項の「消費者契約の締結について媒介をすることの委託(以下この項において単に「委託」という。)をし」を「消費者契約を締結する旨勧誘することを依頼し又は消費者契約の締結に向けた交渉に関与させ(以下この項において単に「依頼等」という。)」にそれぞれ改めるほか、法5条2項に下記を挿入し、現行の2項を3項に繰り下げるべきである。
2 消費者が、前条第1項乃至第3項の規定により消費者契約を取り消したときは、当該消費者契約に基づく金員の支払いを求める第三者に対し、その支払いを拒否し又は支払済みの金員の返還を請求することができる。
【意見の理由】
1.第三者の範囲
(1)事業者本人が消費者契約の締結について勧誘するに際し、消費者に対し誤認惹起行為あるいは困惑行為(以下、「誤認惹起等行為」という)を行った場合は、法4条により消費者は当該消費者契約を取り消すことができる。
一方、第三者が同様に誤認惹起等行為を行った場合も、消費者は法5条1項により同じく消費者契約を取り消すことができるのであるが、その第三者は「事業者と同視しうる」という限定が付される必要がある。なぜなら、何らかの限定が付されないと、事業者は自分と無関係の第三者の行為を原因として契約の効力を否定されることになるからである。
(2)すなわち、法5条1項は「事業者に帰責性が認められるべき」、「事業者と同視されるべき」第三者を確定するという目的をもつのであり、現行法は「事業者が第三者に対し、当該事業者と消費者との間における消費者契約の締結について媒介することの委託をし、(後略)」と規定し、その目的を果たそうとする。
(3)ところで、「媒介」とは、「ある人と他の人との間に法律関係が成立するように、第三者が両者の間に立って尽力すること」と定義される。さらに、立法担当者の解説によれば、「両者の間に立って尽力する」とは「通常、契約締結の直前までの必要な段取り等を第三者が行っており、(あとは)事業者が契約締結さえすませればいいような状況と考えられる」とされている。とすると、事業者が第三者をして契約成立過程の一部分のみに関与させた場合、たとえば、契約締結勧誘行為のみに関与させたような場合は、「媒介」に該当しないと解釈される可能性がある。
(4)しかし、第三者の消費者に対する誤認惹起等行為は、事業者が行うのと同様に、契約勧誘行為の場面にこそ行われることが多いのであり、前記解釈に支えられた「媒介」という言葉では、本来同条項が適用されるべき場合に適用されない可能性がある。
また、そもそも、「消費者契約法(仮称)の具体的内容」(平成11年11月30日国民生活審議会・消費者政策部会消費者法検討委員会報告)においては、「事業者が第三者に対し、消費者に対して当該消費者契約を締結する旨勧誘することを依頼し(後略)」と規定されているのである。
(5)以上のように検討していくと、現行法の「媒介の委託」という言葉による第三者の範囲確定は狭すぎるのではないかと思われる。そして、誤認惹起行為・困惑行為が契約成立過程のどこで行われることが多いのかという視点に立つと、法5条1項は意見の趣旨のとおり改めるべきと考えられるのである。

2.決済業者の責任
(1)消費者契約締結に関し誤認惹起等行為を行った事業者が、当該消費者契約による代金をクレジット業者、電子マネー発行業者、収納代行業者、決済代行業者などの第三者(以下、「決済業者」という)から早々に受け取り、その後、消費者が決済業者からの支払請求に直面して困った状況におかれることがしばしばみられる。
なぜならば、このような場合、決済業者との間の契約(以下、「決済契約」)という)と誤認惹起等行為が行われた消費者契約(たとえば、販売契約)とは別個の契約であり、販売業者が決済契約についてまで誤認惹起等行為を行うことはあまり想定できないため、消費者は決済契約の取消しを行うことができないことが多いからである。
結果として販売契約に関する代金支払請求を受けた消費者は、決済業者に対し販売契約に関する抗弁の接続まではできても、既払金の返還が認められずに困ってしまうのである。
(2)裁判例の中には、このようなケースについても、法5条1項の適用により決済契約の取消しを認めたものがある(大阪簡裁平成16年1月9日国民生活2007年1月号64頁、小林簡判平成18年3月22日消費者法ニュース69号188頁)。しかし、いずれの裁判例も法5条1項がストレートに適用されたものではなく、販売契約と決済契約との間に存在する「ある関係性」(たとえば、相互依存性、一体性、経済的・実質的な密接関連性等)に着目し、妥当な解決を図るための解釈が試みられているように思える。とすると、このようなケースを救済するのに、法5条1項は必ずしも「直接的な有効策」とはなってはいないのではないかと考える。
(3)つまり、このままでは、誤認惹起等行為を行う事業者が決済業者と提携し、決済業者を代金回収手段として利用するシステムに対する有効策はあり得ず、問題事業者が容易に不法な収益を自分のものとする一方、消費者は適切な被害回復を得られないという状況はなくならないと思われる。
問題は、問題事業者とその提携決済業者の存在に止まらず、事業者が消費者から代金回収を行わず決済業者から代金相当額の資金回収を行うことで自分はよしとし、消費者からの資金回収を決済業者に任せることを可能とする「仕組み」に存在するものと考えられ、このような仕組みにより消費者が被害を受けることの責任の一端は、このような仕組みを構築して収益を得ている決済業者にもあると思われる。
よって、このような仕組みによる事業者の不法収益獲得に対抗するためには、その矛先を事業者だけではなく、結果的に問題事業者の不法収益獲得を手助けしている決済業者にも向けざるを得ないのであり、意見の趣旨記載のとおりの規定を新設すべきと考える。
(4)なお、このような意見に対し、決済業者からは「単に立替金の回収を行っているだけ」「単に集金を行っているだけ」等の反論も聞かれよう。しかし、決済業者は問題事業者と提携し、消費者から資金回収を図ることにより自らも利益を得ていることについて、もっと自覚的になる必要があるのではないかと思われる。
また、代金支払いの原因取引(たとえば、販売取引)と、その取引に基づく消費者への代金請求行為が切り離されて行われることによる消費者トラブルが増加し、かつ、有効な消費者の被害回復策が存在しないのであれば、「消費者の利益の擁護を図」ることを目的とする消費者契約法が有効な被害回復策をもつべきとも考える。

第10 取消権の時効期間
【意見の趣旨】
法7条1項の「追認をすることができる時から」を「誤認または困惑状態を脱した時から」に、「6箇月」を「5年」に、「5年」を「20年」にそれぞれ改めるべきである。

【意見の理由】
1.意見の趣旨
当初、当会は、本試案の作成に当たり、法4条の取消権の行使期間を定めている法7条1項を削除しようと考えていた。なぜなら、法4条の取消権の行使期間は、民法のそれと同じでよいと考えていたからである。しかし、議論を重ねていく中において、短期消滅時効の起算点(特に不退去・退去妨害行為の場合)の問題について、何らかの手当てをすべきであるという結論に達した。そこで、法7条1項を上記意見の趣旨のとおり改めるべきとの意見に達した。

2.行使期間
本試案では、取消権の行使期間を現行民法と合わせることにした。その理由は次のとおりである。 消費者契約法の取消権行使期間は、民法の詐欺、強迫のそれ(追認できる時から5年、行為の時から20年)と比べて極端に短い。取消権行使期間が短いのは、取消要件を緩和した代わりに法律関係の早期安定に配慮したため、と説明される。しかし、現行法の取消権の行使期間はいかにも短すぎる。誤認状態や困惑状態が解消したとしても、消費者自身は取消権が生じていることをそもそも知らないことが多く、専門家に相談した時には既に行使期間を経過してしまっているというケースも珍しくない。法は、消費者と事業者との間に格差があることを認め、実質的平等を確保するために民法の詐欺・強迫の要件を緩和したのである。事業者にとって取消しの対象が広がったから、その代わりに取消権行使期間を短くするという交換条件的な立法理由は、法の制定理由を没却するものと言わざるを得ない。そもそも、誤認・困惑を惹起する行為をした事業者に対し、民法と比べて優遇するような規定を設ける理由が見当たらない。そこで、本試案においては、取消権の行使期間を現行民法のそれと合わせることにした。なお、債権法改正の議論において、民法の取消権の行使期間を5年から3年、20年から10年に短縮しようという提案がなされているが、本試案作成時点において議論の帰趨が確定したとは言えないため、現行民法の期間に合わせた。

3.誤認または困惑状態を脱した時から
本試案では、短期消滅時効の起算点について、「追認をすることができる時から」をやめて「誤認または困惑状態が消滅した時から」に改めることにした。その理由は次のとおりである。 現行法の不退去・退去妨害取消にかかる短期消滅時効の起算点は、事業者によるそれらの行為の解消時と解釈するのが一般的である。しかし、それらの困惑惹起行為を体験すれば自明のことであるが、不退去・退去妨害行為の解消と肉体的・心理的な困惑状態の解放は常に合致するわけではない。むしろ、行為の解消からある程度の時間が経過してはじめて困惑状態から解放されることの方が自然ではないか。したがって、短期消滅時効の起算点について、事業者による行為(不退去・退去妨害)が解消した時ではなく、消費者が肉体的にも心理的にも困惑状態から解放された時とすべきである。そこで、その趣旨を明らかにするために、「追認をすることができる時から」をやめて「誤認または困惑状態が消滅した時から」に改めることにした。

第11 消費者契約の条項の無効
【意見の趣旨】
法8条ないし10条を、次のとおり改めるべきである。
(契約条項の解釈準則)
第8条 消費者契約の条項の解釈について疑義が生じたときは、消費者にとって最も有利に解釈しなければならない。
(無効とする消費者契約の条項)
第8条の2 次に掲げる消費者契約の条項は、当該条項全体を無効とする。

1.事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
2.事業者の債務不履行により消費者の生命又は身体に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
3.事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
4.消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
5.消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者の生命又は身体に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
6.消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
7.消費者契約が有償契約である場合において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるとき(当該消費者契約が請負契約である場合には、当該消費者契約の仕事の目的物に瑕疵があるとき。次項において同じ。)に、当該瑕疵により消費者に生じた損害を賠償する事業者の責任の全部を免除する条項
8.条項の解釈を事業者にのみ認める条項
9.事業者の権利又は消費者の義務の存否に関する終局的な判断権限を事業者にのみ与える条項
10.事業者の義務又は消費者の権利の存否に関する終局的な判断権限を事業者にのみ与える条項
11.事業者が任意に債務を履行しないことを許容する条項
12.事業者の債務不履行責任を制限し又は損害賠償の額を定めることにより消費者が契約を締結した目的を達成することができないこととなる条項
13.法律によって認められた消費者の相殺権を排除又は制限する条項
14.法律によって認められた消費者の解除権(申込みの撤回、将来に向かってのみ効力を有する解除を含む。)を制限する条項
15.消費者契約に基づいて生じた事業者の消費者に対する債権を事業者が第三者に譲渡することについて、消費者があらかじめ異議をとどめない承諾をする条項
16.事業者が消費者の同意を得ることなく第三者に消費者契約上の地位を移転させることを認める条項
17.事業者が消費者契約に基づいて生じた債務を消費者の同意を得ることなく第三者に負担させ、かつ、当該事業者が自己の債務を免れることを認める条項
18.事業者の証明責任を軽減し、又は消費者の証明責任を加重する条項
19.管轄裁判所を事業者の住所地又は営業所所在地に限定する条項

2 前項第7号に掲げる条項について、次に掲げる場合に該当するときは、同項の規定は、適用しない。

1.当該消費者契約において、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該事業者が瑕疵のない物をもってこれに代える責任又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合であって、当該責任に基づく義務が現実に履行された場合
2.当該消費者と当該事業者の委託を受けた他の事業者との間の契約又は当該事業者と他の事業者との間の当該消費者のためにする契約で、当該消費者契約の締結に先立って又はこれと同時に締結されたものにおいて、当該消費者契約の目的物に隠れた瑕疵があるときに、当該他の事業者が、当該瑕疵により当該消費者に生じた損害を賠償する責任の全部又は一部を負い、瑕疵のない物をもってこれに代える責任を負い、又は当該瑕疵を修補する責任を負うこととされている場合であって、当該責任に基づく義務が現実に履行された場合
(一部を無効とする消費者契約の条項)

第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。

1.消費者の債務不履行に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が平均的な損害の額を超えるもの 当該超える部分
2.消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、違約金を定め、又は原状回復請求権の範囲を定める条項であって、これらを合算した額が平均的な損害の額を超えるもの当該超える部分
3.消費者契約の解除に伴う履行済みの給付に対する対価の請求を予定し、又はあらかじめ受領した対価の不返還を定める条項であって、履行済みの給付に相当する対価の額を超えるもの当該超える部分
4.当該消費者契約に基づき支払うべき金銭の全部又は一部を消費者が支払期日(支払回数が2以上である場合には、それぞれの支払期日。以下この号において同じ。)までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年14.6パーセントの割合を乗じて計算した額を超えるもの 当該超える部分

2 前項1号及び2号の平均的な損害の算定するときは、解除の時期、契約目的達成の代替性等を考慮するものとし、違約罰はこれを認めない。
(前二条のほか消費者契約の条項が無効となる場合)

第10条 前二条のほか消費者の利益を不当に害する消費者契約の条項は、当該条項全体を無効とする。ただし、この法律その他の法律に特別の定めがあるときはこの限りでない。

2消費者契約の条項であって、当該条項が存在しない場合と比較して、消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重するもの及び事業者の責任を制限し又は免除するものは、前項の消費者の利益を不当に害する消費者契約の条項と推定する。
【意見の理由】

1.基本的な考え方
本試案の冒頭においても述べたとおり、当会は、法2章2節消費者契約の条項の無効(法8条ないし10条)について意見を考えるに当たり、消費者契約法制定の理念の一つである「(消費者契約の紛争について)裁判外紛争処理の円滑化・迅速化・低コスト化」をその根底・土台とした。すなわち、意見を考えるうえで、裁判上だけでなく裁判外における紛争解決の具体的指針として機能するよう、条文ができる限り明確かつ単純となることを思考の出発点としたのである。わかりやすさと具体性は、時に相克する関係に陥ることもあるが、本試案ではかかんにも二兎を追うことにチャレンジした。 また、学納金問題において法9条1号を適用すべきか法10条を適用すべきか議論が分かれていることなど、現行法の不当条項リストが不十分なために、消費者契約法制定の理念の一つである「(一般条項に比べたときの)法的安定性」が十分に確保できていないと考え、現行法の不当条項リストに新たなものを追加すべきとの意見に至った。
なお、不当条項リストのほかに不当条項と推定する条項のリストを明示することも考えられる。しかし、当会は、不当条項と推定するリストの明示を避け、意見の趣旨10条2項のとおり、包括的な推定規定を設けることとした。その設置理由は現行法と同趣旨であり、不当な条項のすべてを列挙することが困難であること、例示列挙した条項に該当しない条項がすべからく有効となるという事業者の短絡的反対解釈を許さないことである。

2.契約条項の解釈準則(8条の2)
第2-2で契約条項の平易・明確化義務を事業者に課すべきであることを指摘したが、条項の解釈をめぐり疑義が生じたということは、事業者に義務違反があったと評価できるのであるから、このような場合には、約款の作成者不利解釈準則を一歩進めて、意見の趣旨8条の2のとおり消費者に最も有利に解釈すべきと考える。

3.契約条項の無効(8条の3)
法8条は「事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効」を定めているが、意見の趣旨8条の3では、不当条項リストを追加し、無効となる条項の対象が事業者の損害賠償の責任を免除する条項以外のものに及ぶべきであるとしたため、表題を修正した。
また、例えば消費者契約の契約条項の中に「事業者の損害賠償責任は10万円を限度とする」という条項がある場合において、当該条項は、法8条1項2号に抵触して全体として無効となるのか、それとも、事業者の債務不履行が軽過失によるものであったときは有効であり、事業者の債務不履行が重大な過失または故意によるものであったときに限り無効となるのか、という議論がある。このような議論に対する結論を裁判官の判断に委ねることは、既述の消費者契約法制定の理念にそぐわない。
そこで、意見の趣旨8条の3では、条項全体が無効となることを明確にした。以下、必要に応じて「問題となる条項の具体例」を挙げながら、項目ごとに意見を述べる。

1.1項1号
現行法8条1項1号と同じ。
2.1項2号
新設条文。
人の生命や身体の安全は重要な法益である。その重要性に鑑み、これらが侵害された場合には損害の賠償の一部であっても責任を免除すべきではないと考える。

◆問題となる条項の具体例
事業者が本契約に定める業務の遂行をするに当たり、本契約に定められた安全規定に違反その他事業者の責に帰すべき事由により消費者を死亡させ又は負傷その他身体に障害を生じさせたときは、事業者は損害を受けた消費者又はその遺族に対し1000万円を限度としてその損害を賠償する責に任ずる。
3.1項3号
現行法8条1項2号と同趣旨。
なお、柱書の規定により、1項3号に抵触する条項はその条項全体が無効となる。
4.1項4号
現行法8条1項3号と同じ。
5.1項5号について
新設規定。
新設理由および問題となる条項の具体例は(2)と同じ。
6.1項6号
現行法8条1項4号と同趣旨。
なお、柱書の規定により、1項6号に抵触する条項はその条項全体が無効となる。
7.1項7号
現行法8条1項5号と同じ。
なお、現行法について、瑕疵担保責任による損害賠償責任を一部に限定したり、行使期間を短縮したりする条項の問題が指摘されるが、この点は意見の趣旨10条により治癒されると考える。
8.1項8号
新設規定。
契約条項(契約書に記載されている文言など)を解釈する権利を事業者のみに認める条項は、事業者に対し一方的に契約内容を決定する権限を与えることと同じ結果をもたらす。つまり、契約条項をあいまいにしておき、契約締結後、事業者が自己に有利な解釈に基づいて消費者に請求したり、自己の債務を履行したりするという事態を招来しかねない。
契約締結後に、事業者の随意により契約内容が左右されることは消費者にとって不合理であり、契約条項の平易・明確性を求める法の趣旨にも反するから、無効とすべきである。

問題となる条項の具体例
本契約書に定められた条項の解釈について疑義が生じたときは、事業者の解釈に従うものとする。
9.1項9号
新設規定。
契約条項に基づいて、事業者の消費者に対する権利(請求権)が発生することがある。この場合、当該権利の発生が事業者の随意に委ねられてしまうと、既述の契約条項の解釈権限を事業者のみに認める場合と同様の不合理が生じる。よって、このような条項は無効とすべきである。

問題となる条項の具体例
当社において、会員の責に帰すべき事由により専用機器が正常に作動しないと判断した場合は、当社において要したすべての費用を会員が負担するものとします(映像配信サービスの利用規約)。
10.1項10号
新設規定。
この条文を設ける理由は(9)と同じ。

問題となる条項の具体例
プログラムの記録媒体に物理的欠陥があった場合において、お客様が本製品をお受け取りになった日から30日以内に、かかる日付を記した領収書を添えて弊社にご返却されたときには、弊社は当該記録媒体を無償で交換するものとします(ただし、弊社が当該欠陥を自己の責によるものと認めた場合に限ります)。
11.1項11号
新設規定。
契約条項の中にあらかじめ事業者が任意に債務を履行しないことを許容する条項を設けることはすなわち、履行するもしないも事業者の随意に委ねられることであり、契約を締結した意味あるいは消費者の期待を大きく損ないかねないものであるから、無効とすべきである。

問題となる条項の具体例
契約の存続期間中にかかわらず、弊社の都合によりお客様に予告することなく本サービスの提供を中止することができるものとします。
12.
1項12号
新設規定。
事業者の債務不履行責任を制限することにより、結局、事業者に対する契約の拘束力を実質的に失わせ、消費者にとって契約の目的を達成できなくなるような内容の条項は、無効とすべきである。

◆問題となる条項の具体例
洗濯物を受領してから6時間以内に引き渡すクリーニングについて)お約束のお時間までに洗濯物をお引渡しできなかったときは、お客様がお持ちの弊社ポイントカードに1ポイント分(筆者注:1ポイントは0.5円相当)加算させていただきます。
13.1項13号
新設規定。
消費者が相殺権を奪われた場合、消費者は、反対債権(消費者が当該事業者に対して有する債権)の回収不能というリスクを一方的に負担することになり、いかにも不合理であるので無効とすべきである。

問題となる条項の具体例
荷送人から事業者に対する荷物の滅失または毀損に対するクレームは、運送料等の全額が支払われるまでは受理しないものとします。クレーム金額は事業者が請求する運送料等から減額することはできないこととし、荷送人は、事業者の運送料等とクレーム金額の相殺に関する制定法及び慣習法によるものを含むいかなる権利もこれを放棄するものとします。
14.1項14号
新設規定。
法律は、契約当事者の一方の帰責事由や契約形態により、相手方の同意なく契約関係から離脱できる解除権を認めている。強行規定により保障されている解除権(例えば、特定商取引に関する法律9条の解除権)については問題ないが、それ以外の解除権については特約によって排除・制限されるおそれがある。解除権を消費者から奪ったり、その行使を制限したりすることは、消費者を不当に契約関係に拘束することになり妥当ではないため、無効とすべきである。

問題となる条項の具体例
1.理由の如何を問わず、契約の解除は一切認めません。
2.消費者は、違約金として金●円を支払わなければ、契約の解除をすることができません。
15.1項15号
新設規定。
債務者が債権譲渡について異議をとどめない承諾をした場合、当該債務者は、新債権者(譲受人)に対し、旧債権者(譲渡人)に対して有する抗弁をもって対抗することができない。契約締結時点で消費者にあらかじめ債権譲渡について異議をとどめない承諾をさせることは、消費者の事業者に対する抗弁を奪う結果を招来しかねず不当であるから、無効とすべきである。

問題となる条項の具体例
消費者は、事業者が本契約から生じる事業者の消費者に対する一切の債権を第三者に対して譲渡することに異議なく承諾します。
16.1項16号
新設規定。
一般に、事業者の作為を求める契約については、事業者が誰であるかによってその質や作為の内容が大きく異なり、消費者も事業者の個性を重要視して契約を締結する。そのような契約において、消費者の同意なくして契約上の地位を移転することを可能とする条項は、消費者の期待を大きく損なう可能性を有するもので不当であるから、無効とすべきである。

問題となる条項の具体例
請負人は、注文者の承諾を得ることなく、請負人たる地位を第三者に移転し、本契約から離脱することができます。
17.1項17号
新設規定。
免責的債務引受契約は、債権者の同意を要件としている。その理由は、債務者の交替により、債権の経済的価値(債務の履行可能性や債務者の資力)を損なう危険が生じるためと説明される。事業者が消費者の同意を得ることなく第三者に免責的債務引受させることができることを認めた場合、上述の危険を消費者に一方的に押しつけるばかりでなく、事業者が無思慮・無責任な契約締結を図ることを助長しかねず、不当であると考える。

問題となる条項の具体例
事業者は、消費者の同意を得ることなく、本契約により生じた自己の債務を第三者に引き受けさせることができます。この場合、事業者は、自己の債務の履行を免れるものします。
18.1項18号
新設規定。
民事訴訟における立証責任の分配の原則と比べて証明責任を消費者に不利に定める条項は、現行法10条でも無効と解されている。

問題となる条項の具体例
消費者は、事業者に対し、事業者の債務不履行に基づく損害賠償請求をするときは、事業者に帰責事由があることを立証しなければならないものとします。
19.1項19号
新設規定。
管轄裁判所を事業者の住所地や営業所所在地に限定する専属的合意管轄条項は、事業者に有利なものであるばかりか、消費者の住所によっては遠隔地での訴訟追行を強いられるなど、消費者の裁判を受ける権利を事実上制限する結果をもたらす。そこで、事業者に有利な専属的合意管轄条項を無効とすべきと考える。

問題となる条項の具体例
事業者及び消費者は、本契約に関する一切の訴訟について、事業者の本店所在地を管轄する裁判所をもって専属管轄とすることに合意します。
20.2項各号
現行法8条2項各号と同趣旨であるが、代物給付または修補の条項が設けられているだけでは足りず、現実にそれらの責任が果たされた場合に限定することにした。
ところで、しばしば起きる事象であるが、消費者の中には、瑕疵のある物を給付した事業者に対する信頼を失い、当該事業者に瑕疵を修補させることはもちろん、代物給付すら拒絶する者もいる。そのような場合(消費者の意思によって瑕疵修補や代物給付を拒絶する場合)、事業者等が現実にそれらの責任を履行しなかったことに変わりはないので、事業者の瑕疵担保責任の全部免除条項を無効とし、当該消費者は瑕疵担保責任に基づいて金銭賠償を求めることができると考える。

4.契約条項の一部無効(9条)
1.1項1号
新設規定。
現行法9条1号は、解除に伴う損害賠償の額の予定または違約金条項にのみ適用がある。しかし、その立法趣旨は、不相当に高額な損害賠償責任を消費者に課すことは不当であるとするものであり、「解除に伴う」場合に限る合理的理由はそもそもない。
2.1項2号
後述(5)とあいまって、現行法9条1号と同趣旨。
3.1項3号
最高裁は、大学の学納金を返還しないとする条項の効力について、現行法9条1号に基づいて判断をした。しかし、この判断については、条項の効力を判断するための根拠条文の選択およびその結論をめぐり、大いに批判されているところである。そのような論争が起きるのであれば、対価を返還しないとする条項の効力について条文を設け、無用な紛争を終結させた方がよいと考える。
4.1項4号
現行法9条2号と同じ。
5.2項
現行法9条1号の「解除の事由、時期等の区分に応じ」を抜き出し、別立てで規定したものである。また、損賠賠償法理における利得禁止原則・実損害を超えてはならない準則に基づき、違約罰(実損害を超える部分)を平均的損害に参入してはならないことを明示することとした。
5.その他の契約条項の無効(10条)
1.1項
現行法10条と同趣旨。
2.2号
新設規定。
意見の趣旨10条2項では、「消費者の利益を不当に害する消費者契約の条項と推定する」旨の規定を設けた。この規定は、現行法10条を土台とし、最判平成23年7月15日(判時2135号38頁)が説示した「不文の任意法規や契約に関する一般法理をも含む」という考え方を取り入れ、さらに不当でないことを反証する責任を事業者に課すことにした。
なお、この推定規定について、事業者に酷であり、事業活動を減退させたりコストが消費者に転嫁されたりするのではないか(つまり、終局的には消費者にも不利益ではないか)、という指摘がある。しかし、当会は、そのような意見に与しない。なぜなら、仮にこの規定が導入され、反証叶わずに不当条項と判断されて当該条項が無効となったとしても、任意規定(不文の任意法規や契約に関する一般法理をも含む)が適用されるのであり、事業者に極端に不利というわけではないと考えられるからである。
3.1項3号
最高裁は、大学の学納金を返還しないとする条項の効力について、現行法9条1号に基づいて判断をした。しかし、この判断については、条項の効力を判断するための根拠条文の選択およびその結論をめぐり、大いに批判されているところである。そのような論争が起きるのであれば、対価を返還しないとする条項の効力について条文を設け、無用な紛争を終結させた方がよいと考える。
4.1項4号
現行法9条2号と同じ。
5.2項
現行法9条1号の「解除の事由、時期等の区分に応じ」を抜き出し、別立てで規定したものである。また、損賠賠償法理における利得禁止原則・実損害を超えてはならない準則に基づき、違約罰(実損害を超える部分)を平均的損害に参入してはならないことを明示することとした。

平成26年3月24日
静岡県司法書士会 会長 西 川 浩 之