貸金業法の見直しに反対する会長声明
出資法上限金利の年20%への引き下げ、みなし弁済の廃止、年収の3分の1を超える貸付を禁止する総量規制の導入等を内容とする貸金業法の改正(平成18年12月13日成立)は、わが国の多重債務対策に大きな一石を投じた。
統計によれば、改正から5年が経過した現在、多重債務状態にあるものと推測される「5件以上の貸金業者から借入れのある者」は171万人(平成19年3月末)から44万人(平成24年3月末)へと激減、「自己破産件数」はピーク時の24万件(平成15年)から10万件(平成23年)へ、「経済苦による年間の自殺者数」は1973人(平成19年)から998人(平成23年)へといずれも減少した。
これらはいずれも、改正貸金業法の大きな成果と評価できる。
一方、懸念されていた「ヤミ金被害の増大」も、統計によれば被害額322億3639万円、被害人員32万1841人、検挙人員1246人(いずれも平成15年)がそれぞれ、117億5516万円、5万334人、666人(いずれも平成23年)とむしろ大きく減少した。
被害減少の原因として「ソフトヤミ金」化がしばしば指摘されるが、仮に暴力的な取立がないとしても、平均値2269%・中央値913%と集計される暴利を返済し続けることは不可能であり、返済に窮したヤミ金利用者がいずれかの相談窓口にたどり着くのは必然と考えられる。しかし、当会が運営する「司法書士総合相談センターしずおか」に寄せられるヤミ金に関する相談は激減しており、弁護士会、金融庁、警察庁、日本貸金業会のいずれの相談機関でも同様である。
ヤミ金被害は、法改正後も決して拡大していないのである。
もうひとつの懸念材料であった「信用収縮」については、「5件以上の貸金業者から借入れのある者」が減少する一方で「借入件数1件」の者は492万人(平成19年3月末)から794万人(平成24年3月末)へと増加しており、過剰与信を防止しながらも必要な資金需要には積極的に応えていることが窺える。
また、事業資金への影響についても、資金繰りの悪化に喘ぐ中小企業の80%超が「本業不振のため」と分析されており、「法改正の影響」と考えられる事案は全体の1%にも満たない。
消費者信用でも、事業者信用でも、法改正と信用収縮との間に因果関係はない。
このような状況の中、自民党・小口金融に関する小委員会は「利息制限法及び出資法の上限金利の緩和」「総量規制の撤廃」等を骨子とする改正案を示しており、民主党内・財務金融部門改正貸金業法検討ワーキングチームでも、「事業者向け特例金利」の創設を柱とする改正案検討の動きがみられる。
しかし、以上に指摘したとおり、貸金業法の見直しを必要とするような立法事実はなく、むしろこの5年間の政策をさらに推進するべきであることは、あらゆる統計結果からも明らかである。
よって当会では、貸金業法見直しの動きに強く反対し、現行貸金業法の下でより一層の多重債務対策が進められることを求める。
平成24年7月27日
静岡県司法書士会 会長 西 川 浩 之