平成24年度事業計画(案)
過去十数年にわたり司法制度改革に伴う法整備が進行し、司法書士会は、その法整備の実現、そしてその改革の精神の具体化のための活動を様々な形で行ってきた。そして静岡県司法書士会は、この期間中も、全国の単位会をリードすべく様々な活動に精力的に取り組み、多様な人材を輩出してきた。この実践の積み重ねこそが静岡県司法書士会の実力の証であり、司法書士制度の発展にとって必要欠くべからざる推進力である。実践の積み重ねこそが最重要課題であると位置づけて、これまでも静岡県司法書士会は各種施策に取り組んできたが、今後も引き続き、時代の変化に即応しながら司法制度改革の究極の目標の達成に向けて実践を続けることが、我々に求められていることであろう。そのための環境整備を行うことが、執行部の役割であることを十分に認識し、平成24年度の事業計画を策定した。
具体的には、①新しいオンライン申請の環境の下での新しい登記制度への対応、②簡裁訴訟代理等関係業務の実績の強化、③消費者庁が必ずしもその期待された役割を十分に果たし切れていない現状において消費者行政の隙間から次々と生じている消費者問題への積極的な関与、④新しい貸金業法の下での多重債務問題への取組み、⑤ますます増加する成年後見業務のニーズへの的確な対応、⑥無縁社会といわれる世相を反映して需要が急増している財産管理業務への適切な取組み、⑦商業登記所集中化後の中小企業の登記ニーズへの対応を含む企業法務のあり方の再構築、といった課題に十全の対応をすることはもちろんのこと、⑧司法書士ADRが市民社会に根付くために必要不可欠な静岡県司法書士会調停センターふらっとの活動を支援するとともに、⑨法テラス(日本司法支援センター)等の関係諸機関との連携を通じて司法書士総合相談センターしずおかの活動をさらに強化すること等によって、多くの人が、自然と、司法書士及び司法書士会が「地域における頼れる連携先」であると認識できるような、そんな環境を作っていくための活動を重点的に行いたい。もちろん、⑩債権法改正の動向を注視し、適切な時期に司法書士実務の観点からの意見を積極的に発言していくことも、「地域における頼れる連携先」であるべき我々の使命であるし、⑪東日本大震災の被災者のための相談活動を継続することも、司法書士及び司法書士制度が被災者にとっての頼れる連携先であるために当然に必要となる活動である。そして、そういった活動の大前提となる、我々の存在の根拠となる司法書士制度の位置付けの問題に対しても主体的に関わっていく必要があることから、⑫次期司法書士法改正大綱をめぐる動きにも注視し、積極的に発言をしていかなければならない。
司法書士及び司法書士会が、地域社会の中での連携の一員として、自らの職責はきちんと果たし、そのうえで地域のネットワークの中の他の専門職等に適切につなぐこと。また、他の専門職等の抱えている事案について、相談を受け、他の専門職等から事案を引き継ぎ、自らの職責の範囲内で適切に真の意味での解決に導くこと。つまり、他の専門職等と協働して依頼者の権利の保護に寄与すること。これこそが、身近な法律家・暮らしの法律家である司法書士に求められていることであり、一人ひとりの司法書士が、そして司法書士会が、地域のネットワークの中の頼れる連携先として活動することができれば、司法書士は、これからも社会から要求され、信頼される存在であり続けることができるはずである。地域社会には、司法書士及び司法書士会との連携に大きな期待を寄せている人(団体)が数多く存在している。平成24年度は、そのような人たち(団体)との連携を具体的に展開する1年としたい。
総務部
1.会則・諸規則・会務財政の検討
完全定額会費制移行に向けて、以下の作業を行う。
(1)関連規定の整備
証紙等に関する規則、会館管理運営規程、経理規程、会館特別会計規程、事務局執務細則等
(2)完全定額会費制移行時における証紙取扱い事務についての検討
2.会員の執務・品位保持・紛議処理に関する事項、非司法書士排除活動への取り組み
引き続き総務委員会による組織的な対応を行い、一つの苦情案件につき、複数の担当者が対応することで、苦情対応の迅速性及び透明性を高める。
また、社会の司法書士に対する意見を真摯に受け止め、根本的な執務・品位保持に関する対応策を講じる。
3.災害時危機管理体制の整備
平成23年3月11日発生の東日本大震災への対応を検証し、当会の危機管理体制の一層の充実を図る。
4.東日本大震災への継続的支援
昨年度からの事業を引き継ぎ、気仙沼地域へ毎週1名ないし隔週2名程度の相談員派遣を継続する。
5.会員の登録に関する事項
6.事務局の運営及び会館管理、事務局体制の効率化
7.他団体との情報交換並びに交流
8.業務賠償責任保険の維持・管理
9.住宅金融支援機構等の承継登記にかかる事務管理
経理部
1.本会会費(定額会費並びに業務会費)の適正な収入の確認と事務局における管理
2.特に業務会費(証紙の売り上げ)納入について、会員への証紙購入の励行を促進するとともに、最終年度として、早めの証紙購入の過不足の調整をお願いすること
3.各事業支出(各部会・委員会等)の適正な執行状況の把握と確認
4.各管理費(特別会計支出を含む)の適正な支出の把握と確認
5.完全定額会費制移行に向けて、特別会計のスムーズな移行
企画広報部
1.対外広報事業
(1)高校生一日司法書士(司法書士制度140周年記念事業)
平成24年度は、明治5年に司法職務定制が定められてから140周年にあたることから、司法書士制度140周年の記念事業として「高校生一日司法書士」を企画し、対外広報の一環として実施したい。
(2)対外広報ツールの発行
これまで対外向けに発行してきた「HO2」「ニュースレター」「ま・も・る」について、さらなる内容の充実を図ったうえで発行を継続していきたい。
(3)効果的な対外広報の検討
対外広報について様々な手段が考えられるところ、費用対効果の検証を行い、より効果的な対外広報の方法を検討していきたい。
2.対内広報(法改正への対応)及び企画事業
(1)民法(債権関係)改正特別研修
法律実務家たる司法書士として民法(債権法)改正の論点の理解を深めるために、法改正の中心におられる下記の方々を招いて研修会を開催する予定である(平成24年6月16日)。
第1講 基調講演
内田 貴 氏(法務省経済関係民刑基本法整備推進本部参与)
筒井健夫 氏(法務省大臣官房参事官)
第2講 パネルディスカッション
宮下修一 氏(静岡大学大学院法務研究科教授)
(2)司法書士法改正対策事業
他会との連携を図ったうえで、日司連に情報提供するなどの方法により、よりよい法改正に繋がるよう企画していきたい。
(3)簡裁代理業務対策事業
簡裁代理権の活用を推進するため、平成23年度に引き続き実務上の問題点や事例などを紹介していく予定である。
(4)登記制度対策事業
平成23年度に引き続き公益法人移行手続への対応を行うとともに、オンライン申請システムの他、登記関連の制度変更に対応できるよう情報提供していきたい。
(5)企画広報部だより
以上の情報を会員に提供するツールとして、引き続き「企画広報部だより」を発行する予定である。
3.市民権利擁護事業・社会問題への対応(対外活動)
(1)権利擁護懇話会
平成23年度に実施した地域包括支援センター職員との懇話会は、参加者から好評の声をいただき2回目を希望する声が多かったため、さらに内容を充実させたうえで平成24年度も実施し、地域包括支援センターとの連携を深めていきたい。
(2)自死対策
浜松市自死対策事業(絆プロジェクト)をはじめ、各種団体の主催する自死対策事業に参画し、長引く不況により社会問題化している自死問題の対応に取り組んでいきたい。
(3)貧困問題対策
長引く不況の影響により、前述の自死問題のみならず貧困問題が顕在化しいるところである。これまでも当会では生活保護問題に取り組んできたが、今後はこの活動を一歩広げる形で、社会問題となっている貧困と格差拡大・雇用不安対策の分野における各種団体の活動にも参画していきたい。
(4)民法(債権法)改正パブリックコメントへの意見提出
今後予定される民法(債権法)改正の第2次パブリックコメント募集に向けて準備と研究を進めていきたい。
4.出張法律講座の開催(法教育事業)
(1)高校生法律講座の実施
平成23年度までに完成したレジュメを利用して、引き続き高校生を対象とした法律講座を実施したい。また、社会人1年生(若者)の消費者被害を未然に防ぐという趣旨においては、高校生のみならず大学生も対象となると思われることから、大学生を対象とした法律講座についても試験的に模索していきたい。
(2)講師養成研修会の実施
実施校の増加に対応できるよう講師研修会を実施し講師候補者の質と量を確保していきたい。
研修部
1.会員研修
会員の執務に資する研修、タイムリーで最新の情報を盛込んだ研修の実施を心がけ、他部や関連団体が企画する専門性に特化した研修会と内容・日程の調整を図りながら、研修の企画運営に取り組んでいく所存である。特に、DVDを利用した専門性の高い研修を実施し、会員の実務ノウハウを高めていきたい。
また、これまでと同様に定例の研修を補うものとして会員特別研修を位置づけ、法律、制度、社会の変遷に即した研修の開催を心がけたい。
(1)単位制研修
単位制研修は、年次制研修と異なり、研修を受講するかしないかは任意である。しかし、日司連会員研修規則及び日司連会員研修実施要領により、年間12単位以上(うち、甲類研修を6単位以上)を取得しなければならないものとされている。当会は、全国50単位会の平均よりは12単位履修率が高いものの、依然として2割程度の会員が12単位未履修となっており、履修率の改善は喫緊の課題である。
例年、会員研修、裁判事務研修、ブロック研修を全6回開催しており、これらの研修全てを履修すると20単位前後取得することができるが、逆に3回欠席すると必要な12単位を得られないことになる。支部研修、DVD研修、他部の研修などを積極的に受講し、12単位履修をお願いしたい。
(2)年次制研修
年次制研修は、単位制研修と異なり、5年に一度の履修が義務付けられている。昨年度は、身体的問題から参加猶予が続き今後も改善が見込めない会員に対し、代替研修の利用を促し、履修状況の改善につなげることができた。本年度も引き続き、日司連主催主管の年次制研修、関東ブロック主管の年次制研修などの受講機会を告知すると共に、代替研修の受講等も促すなとして履修率の改善に努めたい。
(3)DVD研修
研修は、会員研修に比して少人数で会場を問わず開催できるメリットがあり、専門分野習得プログラムなど専門性の高い研修を実施することが可能である。会員の実務ノウハウを高めるため、年間数回のDVD研修を行いたい。平成23年度は司法書士会館での開催に留まったが、ブロック単位での開催なども検討したい。
(4)財産管理特別研修
平成23年度は、不在者財産管理人に選任された当会会員が本人財産を横領するなど、司法書士及び司法書士会に対する信頼を著しく失墜させる残念な事件が発生した。司法書士は、昨今では、成年後見人・不在者財産管理人・相続財産管理人・遺言執行者などに選任させ、多額の財産を預かり管理していく業務を行うようになっている。不正行為を防止すべく財産管理業務が適正に行われるよう、年数回の研修を実施したい。
2.新人研修
過去20年、司法書士試験合格者数は一貫して増加を続けてきたが、前年の試験で初めて減少に転じた。しかしながら、今後、合格者数減少が続くかどうかは不明である。当会としては、例年通り、年間20名弱の合格者が生じることを前提に研修活動を行いたい。
また、研修実施時期については、中央新人研修、関東ブロック新人研修、特別研修の日程によって大きく影響を受ける。いつ実施するのが効果的であるか検討を進めたい。
(1)配属研修
平成23年度と同様、連続した8週間を実施期間とする。配属先の選定には苦慮するが、新人にとっては執務現場の空気を肌で感じてもらう貴重な機会でもあるので、ぜひ多くの会員に配属を受入れていただき、新人全員の配属研修を続けていきたい。
平成23年度は、配属研修指導員に対するガイダンスを実施した。中央新人研修、ブロック新人研修、特別研修で実施している研修内容を指導員に理解してもらい、かつ受講生に執務上必要な細かい知識を指導いただくためである。本年も同様に実施したい。
(2)集合研修
中央新人研修・関東ブロック新人研修では不足する部分を補う形で、講義を実施する。配属研修は新人にとって貴重な体験を得ることができるが、執務を学ぶ上で8週間は短く、内容が限定的なものになるのは自明である。よって、配属研修で学ぶことができない細かい執務等については、「司法書士執務の手引」を参考に集合研修で学ぶようにしたい。
(3)フォローアップ研修
例年、新人研修は1年間で終了し、その後“新人研修”の範疇でフォローは行っていない。しかし、昨今の経済状況から、新人が短期間で開業に至ることが少なくなっており、2年3年4年と補助者として勤務する者も増えている。このような“新人後”の者に対し、早期に登録し司法書士として活躍することを促し、また当会とのつながりを保つため、執務に関する研修を提供する機会を設けたい。
2.新人研修
(1)特定分野研究グループの支援
(2)特別研修チューター派遣
(3)避難訓練の実施
(4)日司連研修情報システム及び当会DVDライブラリ等の会員への告知
相談事業部
1.「司法書士総合相談センターしずおか」の飛躍と浸透
平成24年10月で、司法書士総合相談センターは10周年を迎えることになる。節目の年にあたり、今年度と同様、“飛躍”と “浸透”をテーマにおいた相談センターの積極的・戦略的な広報活動と、円滑な運営に邁進する。
また、広報活動の成果として、今後も電話相談件数の増加が見込まれることを受け、電話相談は2回線化に移行したい。これに伴い、多くの会員に新たに相談員に登録いただけるようご協力をお願いしなければならない一方、登録相談員全員が今まで以上に「質の向上」に意識をいただき、法律相談というサービスを提供するプロ集団としての相談窓口として、「司法書士総合相談センターしずおか」のブランド力を高めることに会員一丸となって取り組んでいきたい。
2.戦略的な相談会の実施
平成23年度は110番活動を控え、その分、相談センターの電話相談を広く活用することに力を入れたが、その分、外部に対するアピール不足となりがちで、外から司法書士会の活動をみたときに、ともすれば従来よりも活動が停滞したかのような印象を与えているのではないかとの指摘も招いた。そこで平成24年度は、税理士会との協働による相続をテーマとした相談会やミニ講演会等のイベント性のある活動を試みに実施してみたい。
これまで、各種の士業種交流会が主催する相談会はいくつか実施されてきた。この手の相談会は、あらゆる相談ニーズに応えられることが売りであったと考えられるが、今般の企画は、司法書士会と税理士会とのそれぞれの専門分野である相続に特化し、きめ細かい相談を提供できるという特徴がある。また、チラシの頒布や記者レク等を通じ、司法書士会の活動を外部に広く認知いただくことにも資するものと考えている。
すでに、下準備のための協議が個々の会員間で進められており、ご承認いただいた際には速やかに会同士の詰めの作業を進め、早期実施を目指していきたい。実際の運営に際しては、支部役員の皆さんをはじめとする多くの会員のご協力をお願いする次第であ
3.消費者問題対策事業
ここ数年の活動の成果により、消費者問題の分野における他団体との相互信頼関係が構築されてきており、今後も引き続き、さまざまな形での情報提供をしながら、静岡県司法書士会の評価を高める活動にエネルギーを注いでいく所存である。一方で課題として挙げられるのは、新しい人材の養成ではないかと考える。対内的にも対外的にも消費者問題の分野における組織活性化を図るため、消費者問題の専門司法書士といえる多数の人材を若手会員を中心に養成していくことは急務である。
この点、幸いにも今年度は、入門講座の講師を務めた多くの若手会員から積極的にこの分野にチャレンジしたいという意思表明をいただいているので、この機を逃すことなく、委員会内に研究会を設置するなどして継続的に実務の最新情報と被害回復のためのノウハウを継続して学んでいく体制を整えてみたい。
また、多方面から高評価をいただいている消費者問題シリーズ研修は、企画内容や実施回数を見直し、より質の高い効果的な研修会へ発展させることを検討したい。
4.地に足の着いた犯罪被害者支援事業へ
今年度実施した「暴行・傷害被害者相談会」のような相談活動を継続し、受任事件の増加を図ることにより犯罪被害者支援事業の実務への定着を図りたい。
一方で、1月の研修会では、パネラーの皆さんより「シームレスな支援」体制への協力を司法書士会に対して求められている。そのためには、委員会所属の会員だけでなく、多くの会員に犯罪被害者支援事業の必要性を理解いただくことが必要と考える。
そこで平成24年度は、相談センター登録相談員を対象とした事件受任に際しての論点を中心とする研修会と、全会員を対象とした犯罪被害者支援に関する動機形成に資する研修会とのふたつを企画し、司法書士会としての重厚な活動ができる体制を整備していきたい。