水窪町放火事件発生から一年を迎えるにあたって(会長談話)
令和5年10月5日の白昼、浜松市天竜区水窪町地頭方で、住宅18棟、倉庫4棟等を焼く火災が発生しました。その出火元となった自宅に放火したとして当時89歳の男性が逮捕され、現在、静岡地方裁判所浜松支部において、公判が継続しています。
当会は、事件の5日後、犯罪被害者支援委員会メンバーが現地を訪問し被害の実態を調査するとともに、地元自治会の要請にしたがって、合同相談会を実施しました。
その結果、複数の近隣住民の方々から「令和5年8月、夫婦喧嘩で妻が手に怪我をして警察が関与することになった」「二人で暮らしていた妻を二女が連れて行ってしまった」「本人は一人住まいをしたことがなく、ご飯の炊き方もごみの出し方も知らなかった」「しかし、行政の方針は本人の自立を目指すといい、自立の妨げになるから手出しをしないように、と指示された」「私たちは無理だといった」「本人の状況は日に日に悪くなっていった」「本人は、置いて行かれた、捨てられた、なんで帰ってこんだ、と嘆き、ロープを持って来て、これで死ぬ、とまでいうようになった」「行政に伝えると、『死ぬのは自分で死ぬのだからあなたたちは心配しないでいい、気にしないでいい』と言われた」というような声が聞かれ、この事件が偶発的に起きたのではなく、”異変”や”前兆”の末に発生したのではないかと考えるに至りました。
しかし、これらの”異変”や”前兆”を受け止めることができたとしても、それだけで課題が解決し、事件を防ぐことができたというのは早計でしょう。
当会は、会員たる司法書士が、法務局の人権擁護委員、裁判所の調停委員、県市町に設置される自殺対策や成年後見制度促進のための協議会等の委員に就任して、日々、地域社会が抱える課題解決のために、法律専門職としての一翼を担えるよう努めています。しかしながら、どの専門分野であってもその分野だけで課題解決を図ることはおよそ困難だということを私たちは謙虚に認めるべきでしょう。地域における活動の中で互いに信頼関係が芽生え、専門領域の垣根を超えたチーム支援体制が構築できれば 、多様な視点で解決策を導くことができるのではないかと考えます 。私たちは、その実現に尽力したい。
さらに当会は、この事件後、犯罪で直接被害を受けた場合だけでなく、関連して大変な思いをされている方々にも躊躇することなく相談していただけるよう「司法書士直通 被害者もあんしんダイヤル」(毎週火曜・木曜日 14時から17時まで(祝日・年末年始を除く))を開設しました。その結果、これまでは「どこへ相談したら良いのかわからなかった」という内容の相談も受けることができるようになりました。
私たちは、引き続き、総合法律支援法に基づき地域社会における法律専門職としての使命を果たしていく決意を新たにしています。