例外なき金利の引き下げを求める声明 理事会決議
当会は、金融庁及び法務省による9月5日付「貸金業制度及び出資法の上限金利の見直し案」(以下「見直し案」という)に対し、これまでの国民的議論を無視する内容を含むものとして強く抗議し、次のとおり声明を発表する。
声明の趣旨
- 1.出資法の上限金利の引き下げにあたっては、短期・小口・事業者用融資等、いかなる特例措置の導入にも反対する。
- 2.上限金利の引き下げについて長期にわたる経過期間を設けることに反対する。
- 3.実質的な利上げに繋がる利息制限法の金利区分の変更に反対する。
平成18年9月12日
静岡県司法書士会 理事会決議
声明の理由
1.少額短期特例貸付制度の導入は、以下の理由により容認できない
見直し案中、少額短期特例貸付制度の理由の一つとして、「家計調査を参考にすれば、大半の借り手にとって返済可能な額としては月々5万円以内が想定される。」との記載があるが、これは、金融広報中央委員会の「家計の金融資産に関する世論調査」(平成17年)による「全世帯のうち、23.8%に当たる世帯が貯蓄を保有しておらず、特に単身世帯では41.1%と高い」という実態を全く無視したものである。
実際、消費者金融等の利用者の大半が無貯蓄世帯や家計収支の不安定な非正規雇用者層であることを、我々は日々の執務を通して実感している。少額短期特例金利を28%とし、見直し案が示す50万円を1年、あるいは30万円を半年で返済するケースをシミュレーションすると、借主は毎月の家計から5万円以上の返済金を捻出しなければならなくなり、多くの資金需要者にとって、可処分所得からの返済が不可能なことは明らかである。
2.3年間の経過期間を置くことについては、以下の理由により容認できない
出資法の上限金利を利息制限法上の上限金利まで引き下げるにつき、施行日から3年程度の経過期間を置くことは、高金利問題の抜本的解決を目指し、「違法金利撤廃」を検討している昨今の議論とは全く相容れず、特例措置が導入された場合は、最終的に9年間もの長期に亘り、最高裁判決で明確に否定された「違法金利」を暫定的に認めることとなる。このような事態は、高金利を借り手側に長期に亘って許容せよと宣告するに等しく、借り手側が本来求める解決からはほど遠いものである。
また、今回の上限金利の見直しは、平成12年の出資法改正時から検討されていたものであり、すでにそれから6年も経過していることも、考慮されるべきである。
なお、平成12年の上限金利引き下げは、施行まで6ヶ月にも満たないものであったが、何らの混乱も生じていない。
3.利息制限法の金利区分の変更を認めることは、以下の理由により容認できない
現行利息制限法は元本「10万円未満」で年利20%、「10万円以上100万円未満」で18%、「100万円以上」で15%を制限金利としている。この区分について「10万円」を「50万円」に、「100万円」を「500万円」に引き上げることとすれば、消費者金融の貸付の大半を占める50万円未満の貸付については実質的な金利引き上げとなる。
借り手側の返済可能な金利水準についてなんらの議論のないまま、利息制限法の制限金利の区分を引き上げれば、返済が困難になった債務者の救済の道を閉ざすこととなる。一般的な国民の生活水準では、現状の利息制限法所定利率でもまだ高利である。このような金利区分の変更は名目にすぎず、これは多重債務者の最後の救済手段である利息制限法上限金利の事実上の引き上げに他ならない。
現在、全国で300万人を超える高金利引き下げの署名がなされ、静岡県議会を含め、都道府県39議会、市町村880議会で「高金利引き下げの意見書」が採択され、多くの国民の声が、全国から国会に届いているはずである。
これらの声に包含される、国民の要望の本質は、特例つきの金利引き下げなどではなく、利息制限法上限金利までの例外なき一律の金利引き下げである。
当会は、国民の声を無視する金融庁の見直し案について、強い懸念と反対の意思を表明する。