平成21年度事業計画
司法制度改革において多くの法的システムが刷新され、新たな市民の司法へのアクセスポイントが構築されました。そして、その運営面での担い手の一角に存する司法書士に求められたものとは、憲法の最も基本的理念である個人の尊重に直接連なる「法の支配」に基づく、適正かつ透明な手続による公正な法的ルール・原理によって判断される「司法」の担い手としての存在でありました。
その職責を全うすべく静岡県司法書士会は、多重債務者問題他各分野において幅広い活動を展開し、多くの実績を積み重ね、市民の法的利益の享受に寄与してまいりました。
平成21年度においては、これまでに蓄積された経験を糧に、更に高いステージを目指し、努力を惜しまず、これまで以上に邁進していく所存です。
また、政府が進めている民法をはじめとする各種法律の改正検討を絡め、社会環境は益々変化を繰り返していくことが予想されるところです。これら現状を鑑み、その変化に対する情報収集整理を怠らず、適切な素早い対応が可能となる高い組織的機動力を培い、より機能的な会務執行体制を構築することも必須でありましょう。
加え、各方面における社会的活動への参画に関しても積極的な推進を図り、その経済的支援や人材的な支援のための体制整備にも尽力してまいります。
そして、本年度以降は、司法書士法改正へ向けた諸活動が佳境に入るものと思われます。先ず、改正大綱が採択決定されることでしょう。私ども司法書士会は、これら動向に関し、細心の注意をもって臨み、我々の生の声がしっかり反映されるよう鋭意努めてまいります。
また、その他重要な具体的課題として、市民社会から専門職能に対する要求として示された本人確認等の徹底、安心して利用できる登記オンライン申請を目指しての執務環境整備、市民に密着し地域に根差した法律家として必要不可欠なものとしての消費者問題への対応、調停センター「ふらっと」の利用促進、更には、法のアクセス拡充としての地域司法拡充対策(司法過疎対策)への取り組み等が挙げられます。
他、具体的事業計画詳細を次頁以降に記載させて頂いています。その事業計画項目全ては、司法書士制度維持発展に不可欠な事業ばかりであり、市民社会に対する職責と捉えるべきものです。
なお、これら多くの問題解決のために、引き続き、政治連盟、公嘱協会、リーガルサポート静岡支部、青司協との5会合同協議会開催等をとおして、前年度以上に連携された事業活動を展開し、より高い成果を示してまいりたいと思います。
会員各位におかれましては、これら司法書士会活動に対し、今後益々のご支援ご協力を宜しくお願い申し上げます。
重点事項
1.登記オンライン申請等の普及促進
(司法書士業務の高度情報化対策)
2.簡裁訴訟代理等関係業務の受託推進
3.成年後見制度の普及促進へ向けた対応
4.市民権利擁護事業の推進
5.「司法書士総合相談センターしずおか」の事業推進
6.「静岡県司法書士会調停センターふらっと」の運営
7.民事法律扶助制度の活用推進
8.消費者問題等への対応
9.研修制度の充実
10.司法書士制度広報の推進と情報公開
11.「日本司法支援センター(法テラス)」との連携
12.隣接士業者団体・行政機関等との連携、協働
13.支部活動への支援体制強化
14.会務財政の改善に向けた施策の検討
総務部
1.対内広報の充実(会員事務所のIT化の促進)
現在、会員に対する情報提供は、毎月発行される本会通信に書面を同封することを基本としている。しかしながら、近年の業務範囲の拡大及び事業活動の活発化に伴い、連合会等から本会事務局に寄せられる情報量は増加傾向にあり、緊急を要する通知が少なからずあることから、本会通信の発送を待っていては情報が陳腐化してしまう場合もある。そこで本会事務局は、まずは入手した情報を当会の運営する司ネットフォーラムに掲載して情報発信しているが、残念ながら同フォーラムの閲覧者は全会員の一部に留まっている現状である。
よって、特に緊急を要する情報については、全会員にFAX送信して対応しているが、送信枚数が多いものには向かないなどFAXによる対応は万全ではなく、本会経費の節減及び登記オンライン化促進という視点からも、FAX送信を多用するよりも、司ネットフォーラムの閲覧数・利用率を上げることで対応すべきと考える。
そこで今年度は、会員事務所のIT化を促進し、司ネットフォーラムの利用率を上げることを検討実施したい。
2.会員の執務・品位保持・紛議処理に関する事項・非司法書士排除活動
全国的に司法書士の綱紀・懲戒案件が激増しており、また、県内においても非司行為の疑いのある業者・団体等の情報が本会に寄せられている現状にあるので、総務部の体制を一層強化して対応したい。
3.会則・諸規則・会務財政の検討
平成20年度会務財政諸規則検討委員会より、本会会費徴収のあり方については、会館建設借入金が完済された後、定額会費への移行が望ましいことが提案され、併せて、移行に伴う何点かの意見が出された。
そこで今年度は、定額会費制移行に向けて考えられる課題について検討したい。
4.会員の登録に関する事項
5.事務局の運営及び会館管理、事務局体制の効率化
6.他団体との情報交換並びに交流
7.業務賠償責任保険の維持・管理
8.住宅金融支援機構等への承継登記にかかる事務管理
9.災害時危機管理体制の整備
経理部
1.会費並びに業務会費の適正納入の管理確認
2.健全財政の維持と適正支出
3.公認会計士による会計指導・監査
4.会費徴収方法についての検討
企画広報部
1.対外広報の充実・拡充(広報事業)
平成20年度の大改革により、対外広報は①ホームページ、② ニュースレター(年4回発行)、③ HO2(年1回発行)の3つに整理され、それぞれの役割分担が明確化された。
今年度は、改革に魂を吹き込む年である。②・③については、それぞれ改革後の第1弾が発行されており、今後も引き続き、会員各位あるいは読者である市民の声を広く反映させながら、内容の充実・拡充に取り組む所存である。
一方、ホームページのコンテンツの更新がなかなか進まない状況にある。平成20年度までに、担当委員のご苦労によって成年後見関係のFAQについては大幅な更新・追加がなされたほか、不動産登記に関するFAQが一部整備されたが、今年度は、特にFAQに関するコンテンツの充実に徹底的に力を入れていきたいと考える。
昨年、ワーキングチームとして機能した公益法人関連三法に関する分野、相変わらず市民のニーズと関心が高い多重債務問題、特定商取引法や割賦販売法の改正を背景に注目が集まる悪質商法に関する分野、いわゆる2009年問題を背景とした派遣社員等をめぐる労働法等、既存のカテゴリーの修正・更新に留まらず、新たなカテゴリーを含めた市民に対する幅広い情報提供に資するため、魅力あるホームページの作成に努める所存である。
なお、ホームページの原稿のほか、定期的に執筆を担当している静岡ビジネスレポートへの原稿提供のように、「対外的広報」の性質を有する原稿執筆を担当いただいた会員に対し、今年度からは「日当」に準じた支払いを予算化している。
2.さまざまな社会問題への対応(市民権利擁護事業)
(1)生活保護・自死・派遣切り・貧困…
私たち司法書士は、貸金業法改正を求める運動において、上限金利引き下げを端緒とする消費者信用市場の収縮に伴って「借りられない」資金需要者が増大するとの議論に対し、彼らの抱える問題が「借金」では決して解決できないものであり、生活保護をはじめとする社会保障が機能しなければならない分野であると主張した。
法律というハード面が整備された今、現場では、日々新しい問題が生じている。「借りられない」人たちの最後の砦であるはず生活保護における「水際作戦」により、住居を失った者の多くがホームレスとなり、生きる術をも失った者の多くは「自死」を選択するのである。さらに生活保護や自死の問題は、今や借金の問題にとどまらない。未曾有の不況とこれに伴う非正規雇用者の失業が大きな社会問題となったが、近い将来、この流れは正規雇用者にも及びかねない状況にある。
“貧困問題”に法律家として何ができるのか?その答えは残念ながら明確ではないが、しかし市民や関係団体からの司法書士に対する期待は大きい。法改正を求めて声を上げた者の責任として、改正後の現実を放置することはできない。
(2)悪質商法被害・成年後見…
あるいは私たち司法書士は、割賦販売法改正を求める運動において、認知症を患う高齢者等の社会的弱者が、クレジットという代金決済手段を悪用した悪質事業者のターゲットにされているという現実を訴えてきた。
法改正を目前にした今、悪質事業者は、改正の見送られたカード方式のクレジット契約へと既にシフトチェンジを始めている。悪質事業者は、カードという新しい決済代行手段を手に入れ、新たな舞台で今後も次々と被害者を生み続けていくことが予測されるものであり、成年後見を利用した財産管理のニーズは、一層高まることであろう。
(3)「できること・やらなければならないこと」
このように、司法書士業務はもはや、事務所内でのデスクワークだけに留まるものではない。さまざまな社会問題における司法書士へのニーズは大きく、市民からの期待は非常に高い。
今さらながらではあるが、司法書士業務は誰でもできるものではない。資格を持った人間だけに託された独占業務である。「誰でもできるものではない」ということは逆に、「やることを託された人間には逃げ場がない」ということだと考える。無論それは、司法書士法という法律の枠組み中での話である。が、法律の枠組みを超えない範囲で、司法書士会にできること・司法書士会がやらなければならないことを創意工夫し、それを行動に移すことを怠ってはならない。私たちは、負託された業務から、決して逃げてはならないし、市民や関係団体から寄せられる大きな期待に対し、応え続けなければならない責務を負っているのである。
このような考え方から生まれた市民権利擁護事業推進委員会も3年目を迎える。会員の中には、「形の見えない活動」に会員の浄財を使用することについて疑問をお持ちの方も少なくないかもしれない。しかし、当委員会の役割は、次々と発生する社会問題に対し、司法書士会として「何ができるか・何をやらなければならないか」を創意工夫し、それをひとつずつでも確実に実現していくことだと考える。
貧困・自死・成年後見のほかにも、司法過疎・法律相談など当委員会が所管すべき事項は実に幅広い。会員各位の委員会活動へのご理解・ご協力を強くお願いする次第である。
3.会員への機敏な情報提供(登記業務対策事業)
平成20年度までの不動産登記法対策委員会と企業法務推進委員会とを統合し、登記業務対策委員会を新設する。登記オンライン・直接移転取引等、不動産登記における実務上の重要案件については、平成20年度までの対応で一区切りがついたが、今後も日司連が構想するデータセンター、法務局が検討を進めているオンライン登記申請システム障害発生時の対応等、会員の執務に直接影響する重要なテーマが山積している。商業法人登記関係では、一般社団(財団)法人の新規設立や特例民法法人に関する移行手続等、公益法人関連三法に関する実例の集積が予測される。
これらの情報を機敏にキャッチし、会員の執務に寄与できる情報提供を進めたい。必要に応じて、特別研修会も企画する予定である。
また、対内的な情報提供に加え、新しい制度や新しい情報は対外的な関係機関にも周知徹底する機会を設け、取引全体の安全に寄与することにも努めたい。
なお、登記業務とは別に、成年後見業務の担い手育成を目的として企画している成年後見特別研修会も、例年どおりリーガル・サポートの協力を仰ぎながら開催したい。
4.出張法律講座の開催(法教育事業)
社会への巣立ちを目前に控えた高校3年生を主な対象として開催してきた「高校生法律教室」の事業は、県内各高校から高い評価を受け、年々依頼も増加している。平成20年度には、質の向上を図ることを目的にはじめて講師向け研修会も開催され、次第に事業としての精度も高められつつある。
一方で、増加し続ける需要のすべてに応えていくことに、物理的な限界も見え始めている。これまで、委員らの献身的姿勢と派遣講師を担っていただいた会員らの事業への理解によって運営・維持されてきたが、司法書士会が会として永続的に責任を以って引き受けられる「やり方」を真剣に考える時期に来ていることも事実である。
よって、今年度は、年度の早い時期に年間スケジュールを立案すると共に、浜松支部における「市民法律教室」事業ほかに学び、高校生以外に向けた法律教室の実施についても企画・検討したい。
5.その他
(1)士業交流事業
士業交流委員会が所管する合同法律相談は、事業として定着した感がある一方、マンネリ化を指摘する声も少なくない。他士業との交流の中で、司法書士会の位置づけや役割を積極的にアピールすることも必要と考えている。
(2)図書目録の整備
会館図書室の蔵書につき、図書目録の整備を図るほか、予算の許す範囲内で有用な図書購入を積極的に進め、会員の会館利用の便に供したい。
研修部
1.研修会の実施
今年度も引き続き、広く会員全体の執務に寄与できる研修会をタイムリーに企画していく所存である。特に、前掲第2の中で今年度実施できなかったテーマの実現を引き続き検討する。
その他、未曾有の大不況と称される社会情勢の中、法律家として何ができるのかを考える機会を設けたい。セーフティネット、派遣切り(2009年問題)、自死対策等のキーワードを中心に、早急に研修部内でテーマ設定を進めたい。
法改正関係では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律について、いくつかの実例を収集しながら、実務面での会員のフォローアップに寄与したい。また、割賦販売法及び特定商取引法に関する実務に即した研修会も企画したい。そのほか、債権法改正・私的競売手続の法制化等、必要に応じた情報の収集と提供に努めたい。
ブロック研修会では、今年度も特定分野研究グループや本会の各委員会による研究成果の報告に期待したい。ことに、今年度は特定分野研究グループへの応募が低調であったので、今年度は多くの会員から応募頂くことを希望する。
2.単位未取得者への対応
未取得者の氏名公表の是非につき、引き続き意見を募るとともに、公表する場合の具体的なプロセスや方法、クリアすべき障害等を検討する。
なお、寄せられたご意見や議論の経過は、本会通信を利用して会員各位に周知する。
3.新人研修
日司連では、次期司法書士法改正に向けた獲得目標として、司法書士試験合格者の司法書士法上の法的位置づけ(修習生制度の導入)と、司法書士登録者全員に簡裁代理権を付与することを掲げ、そのための基盤作りとして、全国各単位会における新人研修カリキュラムの組織化・均一化を進めている。
日司連から示されたカリキュラム案は、すでに数年前から当会が実施している内容であり、全新人の配属研修制度義務化を含めた当会の新人研修は、全国のモデルになるものと自負する。今年度も引き続き、質・量共に必要十分な研修会を実施すべく、準備を進めたい。
なお、毎年のことではあるが、配属研修の受け入れ先選定には多くの困難が伴う。会員各位の新人養成へのご理解ご協力を重ねてお願いする次第である。
4.その他
- (1)現状、研修委員会の下部組織として裁判事務研修小委員会が存在するが、今年度は裁判事務研修員会を研修委員会に統合し、組織のスリム化を図りたい。
- (2)日司連では、司法過疎対策の一環として、司法過疎地における試験合格者の配属研修(他会関係者を含む)実施を事業化している。当会での配属研修を希望する試験合格者に対しては、新人研修委員会において、受入先との折衝その他の対応を担っていく。
- (3)会員の執務に資する情報を、機敏に提供するのが研修部の務めと考える。今年度も、多方面へのアンテナを張り続け、有益な情報提供に邁進したい。
相談事業部
1.事業計画における相談事業部の重点テーマ
(1)多重債務問題撲滅活動
(2)法テラス及び行政各機関との連携
(3)各種相談会、110番等の実施
(4)静岡県司法書士会調停センターふらっととの連携
2.事業計画
相談業務の充実を図るための各種活動を行う。
(1)常設相談室、当番相談員制度、NTT受信代行システムの運営
(2)法の日記念事業の実施
(3)相続登記はお済ですか月間の実施
(4)被告事件への対応
(5)日本司法支援センター静岡支部との連携
(6)賃貸トラブル110番の実施
(7)労働トラブル110番の実施
(8)司法書士総合相談センターしずおかの相談員研修の実施
(9)その他相談業務を充実するための活動
消費者問題の解決に向けた活動全般を行う。
(1)割賦販売法・特定商取引法の改正にかかる啓蒙活動
(2)クレサラ110番の実施
(3)クレサラ・再生通信の発行
(4)県消費者問題連絡会議への対応
(5)その他消費者問題全般への対応
貸金業法等改正により予想されるクレサラ被害撲滅活動を行う。
(1)貸金業法完全施行に向けての運動
(2)行政各機関とのネットワーク強化
(3)今後予想されるクレサラ被害の研究との撲滅の為の活動
日本司法支援センターと連携し、犯罪被害者の支援を行う。
(1)日本司法支援センターとの連携
(2)司法書士業務における犯罪被害者支援の在り方の研究
(3)犯罪被害者の保護に関する民事訴訟法改正についての研修
(4)刑事訴訟法の研究
静岡県司法書士会調停センター「ふらっと」と連携する。
(1)調停人養成のための研修会等の開催
(2)事例等の研究
静岡県司法書士会調停センターふらっと
1.事業計画
(1)調停の実施
(2)会員及び利用者への広報
(3)手続実施者及び事件管理者のトレーニングの実施
(4)事務局職員等への研修の実施
(5)運営委員会の開催
(6)事案検討会を開催、調停の事案について進行方法等を検討
(7)外部相談機関、ADR機関との連携を図る
(8)「ADR研究会しずおか」との連携(勉強会等の開催)